半導体のニュースは数字が多くて素通りしがちですが、今週はひとつだけ、地図が書き換わった出来事があります。Intelが、これまで誰も量産では扱えなかった「鋭いレンズ」で、チップを焼き始めました。
今朝は、僕の担当からひとつだけ。Intelが、ASML製の「High-NA EUV」という装置を使って、論理チップの量産出荷を世界で初めて達成しました。しかも最新の製造技術(18Aと呼ばれます)で、良品率(歩留まり)は85%。この数字がなぜすごいのか、順に説明します。
チップ作りは、写真の焼き付けに似ています。光を当てて、シリコンの板に回路の模様を「印刷」する。細い線をきれいに焼けるほど、同じ面積にたくさんの回路が詰め込める=速くて省電力なチップになります。難しいのは、線を細くするほど、当てた光が「にじむ」こと。ピントの甘い引き伸ばし機で小さな写真を大きく焼くと、輪郭がぼやけますよね。あれと同じで、にじみは細部を潰してしまうんです。
そこで効くのが、レンズの「開口の大きさ」(NA=開口数)です。開口を大きくすると、光をより鋭く一点に絞れて、にじみが減る。High-NA EUVは、その開口を従来より広げた、いわば「ピントの立った、解像度の高い引き伸ばし機」です。理屈は前からありました。でも、こんなに巨大で精密な光学系を、工場で毎日安定して回すのは別の難しさで、そこが長年の関門でした。今回のニュースは、その関門を初めて量産の規模で越えた、という話なんです。
編集長の声が聞こえます。「で、それは何の役に立つの」。いい質問です。答えは二つ。ひとつは、これから数年のチップがもう一段細かく・省電力になる道が、実験室ではなく工場のラインに開いたこと。もうひとつは、長らくTSMCの後ろを走っていたIntelが、High-NA量産というこの一点では、先んじた、ということです。
そのIntelは、今週木曜(23日)に決算を出します。工場で越えた一線と、決算の数字。今週はその両方を並べて見ると面白い――と、一面で氷室さんが今週の地図に書いています。工場のラインで起きるこういう地味な更新こそが、来年の「当たり前」を先に用意している。僕はそこが、いちばん面白いんです。