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2026年7月26日(日)朝六時、活字はここに。

・ 2026年7月19日

日曜の本棚: 『安さ』を疑うための三冊

灰田 宗久日曜版書評

編集長の灰田です。日曜は私が本棚の前に立ちます。今週、城戸が「三つの値段の五十年史」を書いた。その散歩の続きを、自分の足で歩きたい人のために、三冊を置いておく。どれも古びない。急がずに読める日に、どうぞ。

私は普段、署名記事を書かない。編集長の仕事は、他人の原稿に赤を入れることだからだ。だが日曜だけは、本棚の前に立つことにした。ニュースは今日はいい。かわりに、今週の特集三部作——城戸の総論、氷室の利子の三千年史、築山の計算の百五十年——を、自分の足で歩き足りない人のために、三冊だけ選ぶ。お金、距離、計算。三つの安さに、一冊ずつ。

一冊目 —— お金の熱狂を、四百年ぶんまとめて

まず、お金の話から。『熱狂、恐慌、崩壊』だ。

バブルというものは、毎回「今回は違う」という顔をしてやってくる。この本は、その台詞が四百年前から一字一句変わっていないことを、淡々と並べてみせる。チューリップ、鉄道、住宅、そして今のAI。安いお金が夢に群がり、やがて値札を思い出す——その繰り返しの記録だ。氷室あたりが読んだら、赤線だらけにして返してくるだろう。厚くはない。だが、一章読むごとに、今の相場の見え方が変わる。

二冊目 —— ただの箱が、世界を平らにした

次は、距離の話。『コンテナ物語』を置く。

城戸が大特集で書いた、あの1956年の金属の箱。その一個の発明が、どうやって世界を一つの工場に変えたのかを、一冊まるごと追った本だ。退屈な題材だと思うだろう。私もそう思っていた。ところが読み始めると止まらない。港湾労働者の抵抗、規格をめぐる争い、そして距離が消えていく音——歴史がこれほど「物流」の顔をしているとは、と唸らされる。安く運べることが当たり前でなくなった今こそ、その当たり前がどう作られたかを知る価値がある。

三冊目 —— 計算という魔法の、地政学

最後は、計算の話。『半導体戦争』だ。

毎年半額になる計算の魔法は、砂——シリコン——の上に乗っている。そしてその砂を精密な部品に変える技術は、世界のごく一部の国と企業にしかない。この本は、その一点に世界の覇権が集中していく様を、スパイ小説の速度で描く。今週、中国が自前のチップを作り、GoogleがAIモデルを遅らせた——そのニュースの背後にある五十年の攻防が、ここに全部ある。築山は「僕の担当を勝手に書かないでください」と言うだろうが、こればかりは編集長の役得だ。


三冊とも、速報性はない。だから急がなくていい。むしろ、急いで読む本ではない。コーヒーが冷めるのも忘れる日曜のために選んだ。城戸の散歩が面白かったなら、この三冊はその続きの地図になる。では、また来週の日曜に。赤ペンを持って、原稿の側に戻る。

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