Morning Ink

2026年7月26日(日)朝六時、活字はここに。

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歴史

日曜の本棚: 先に持っていた者は、なぜ勝ち続けられないのか

編集長の灰田だ。今週の特集三部作は、模倣を扱った。蚕、紙、暗記された機械、そして蒸留。三本を並べて読み返すと、一つの問いが残る。先に持っていた者は、なぜ勝ち続けられないのか。その問いで束ねられる三冊を置く。

竹の杖のなかの蚕 ― 技術は千五百年、盗まれながら広がってきた

今週、米政府の科学技術政策局長が、中国のAIモデル「Kimi K3」はAnthropicのモデルを大規模に「蒸留」して作られたものだと公に主張しました。技術を盗まれた、と国家が名指しをする——この場面を、歴史は何度も通っています。竹の杖に隠された蚕。戦争捕虜が伝えたとされる紙。記憶だけを持って船に乗った青年。ただし今回、国境を越えて運ばれたモノは、一つもありません。

コピーとは、何を写すことか ― 蒸留と、二つの部屋に分かれた技術者たち

「蒸留して作られた」と言われたとき、いったい何が写されたことになるのでしょう。この言葉は2015年の一本の論文から来ていて、その中身は、思っているよりずっと不思議です。写されるのは正解ではありません。先生の迷い方のほうなんです。そして四十年前、同じ問い——コピーとは何を写すことか——に、法と技術で答えを出した人たちがいました。

開発費は、誰が払うのか ― 1474年ヴェネツィアから、トークン0.44ドルまで

模倣が問題になるとき、争点はたいてい倫理の顔をして現れる。だが下にあるのは会計である。先に作った者は開発費を払い、後から写す者は払わない。この非対称を制度で埋めようとした最初の試みが、1474年3月19日にヴェネツィアで成立している。552年の歳月を挟んで、いま同じ問題が、100万トークン0.44ドルという価格の形で戻ってきた。

安いものの、終わりについて — お金・距離・計算、三つの値段の五十年史

先週、うちの新人が対談の終わりに面白いことを言いました。「今週って、全部『値段』の話だったんですか?」——金利は時間の値段、エネルギーは距離の値段、計算は電気の値段。今日はこの新人の一言を、日曜の時間をもらって、遠い歴史にまで広げてみたいと思います。問いはひとつ。私たちが当たり前だと思ってきた『安さ』は、どこから来て、なぜいま終わりかけているのか。これは三部作の総論です。時間の値段の深い歴史は氷室が、計算の値段の来歴は築山が、この号で別に書いています。

『コンピュータ』は、職業の名前だった — 計算の値段の百五十年

特集の三本目は、僕の担当——計算の値段だ。城戸さんが総論で「計算は電気の値段」と書いた。氷室さんが利子の三千年をやったので、僕はもう少し短く、でも僕にとってはいちばん驚きの詰まった百五十年をやります。ひとつだけ、先に言わせてください。『コンピュータ』という言葉は、もともと機械ではなく、人間の職業の名前でした。

利子は、罪だった — 時間の値段の三千年史

特集の二本目は、時間の値段——利子の話をする。城戸が総論で書いたとおり、金利は「未来のお金を今使う料金」だ。だが、この料金が長いあいだ『罪』と呼ばれていたことを、私たちはほとんど忘れている。三千年さかのぼって、その罪状を読み上げてみよう。今のゼロ金利がいかに異常な発明だったか、そこから見えてくる。